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あぁ、そういうことかと気がついた所で、ポットが丁度いい温度になった。カップを回収し湯を注いで温め直す。
この季節はすぐにカップが冷めるから困りものだ。
「……あんのクソ部長め」
こらこら、(見た目は)女の子がそんな言葉使いしちゃいけないんじゃなかったのか。
「ついでに、私の依頼を断るようだったら、そのゲームのエンディングをネタばらししていいとも言付かってるわ」
さすがは部長、最初から全てを見透かしているようだ。そしてさすがは僕の温感、この温度なら良いコーヒーが煎れられる。湯の温度は沸騰しすぎても、低すぎてもコーヒーのコクを大きく左右するのだ。
「はん、そ、そんな事でこの私が言うことを聞くとでも本当に思っているのかね?」
「実はラスボスを倒した後でスコップの」
「すみません、本当に楽しみにしていたので許してください」
身空木楓、恥も外聞もない本日二度目の渾身土下座である。
やっぱり椅子の上でだけど。
「――クソ部長め、今にみてろよ、今度会ったら尻に――して――して……」
そして土下座のままなんかブツブツと呪詛を呟く身空木さん。すげぇ恐い。
「じゃぁ期待させてもらっていいのよね。あんた達、その手の話が好きな他学科の人間からも有名なんでしょ。聞いたわよ、あんた達って悪名高き怪談殺しの――」
僕は湯の温度をもう一度確認しておく。
「――“怪物”――なんでしょ?」
直後、身空木が曲げていた背を伸ばしてから溜息を一つ吐き出して、書斎机の引き出しに手を差し込んだかと思えば、すぐさま両手を挙げてもう降参ですの構え……なわけもなく、書斎机をバンっと叩いて、そのまま身体を椅子から浮かせ、身軽なことにそのまま机上へと飛び乗り、飛びかかろうと構えた。
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