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プろ口ーgu
深い霧がかかる大山を背にし、東西へと伸びた濡羽川に包囲される形で収まる御影ノ学園には、生徒が自由に出入りできる屋上が大雑把に区切っても三十以上はある。
それはつまるところ、乱立する校舎数と広大な敷地を同時に意味している。
――私立御影ノ学園。
巨大な学園、無料運行バスで東西南北を繋いだ学科事の校舎群、多種多様に別れた寮や、小さな商店通りを含め一つの街としてまるまる収めた、恐るべき広さを誇る学園。
大正時代の開校から続く長い歴史の中で、増築に次ぐ増築、改築に次ぐ改築を少子化の煽りを受ける近年までは続けていたらしく、現在では馬鹿げた校舎数と敷地の広さが、どこか閑散とした空気を漂わせる、僻地の園。
足を踏み入れれば、まずはその風体に違和感を覚える事だろう。
当時の流行り廃りでもあったのか、西洋かぶれのゴシック建築校舎の隣に現代建築。
木製廊下を進めばコンクリートで塗り固められた袋小路。
老朽化で立ち入りが禁止された区域、教師達ですら把握しきれない教室の数々。
それらを縫い合わせるように長く細い廊下が乱雑に走り抜け、構築、構成された学園には統一感が無く、そのちぐはぐとした異質感は降り積もるように重ねられ、長い年月がそれらを錆び付かせ、歪のまま一つにした。
例えるなら、ここは流れのない暗い池だろう。
完全寮制と絶対遵守を強いられる校則、古びた習わしの数々、それらを溜め込んだ古池。
他の流れを受け入れず、閉鎖的で、排外的な校風を止めた仄暗い池。
だけどそれは、人間関係を最小限に抑えたいと思っている僕にとっては好都合でもある。
つまりは僕は、この古池をわりと気に入っているのだ。
だけど、そんな学園という特殊な閉鎖空間の深い影と幽暗を好む者達は僕の他にもいる。
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