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「なるほど、すこし見せてもらおうか」
その姿を見て、がぜん興味をもったのか、身空木がまじまじと包帯姿の削雛さんを凝視しはじめた。
ぐるりと周りを一周した後、今度は包帯に鼻を近づけひくつかせる、まるで獲物を品定めする獣のソレにみえる。
背を起こし、何かを思いふけるように顎先へ手を添えたかと思えば、今度は片手で削雛さんの身体のあちこちをさすり始め、
「ッ!?」
あまつさえ、顔へ顔を近づけ、引き上げたシャツの隙間へと手を滑り込ませたのだ。
「おいこら」
「別にいいわよ、女同士なんだし」
あ、いえ、実はそいつも男なんです、すっかりと言い忘れていましたと僕が言う前に、
「――えいやっ」
と、あろう事か今度は引き抜いた手の親指を腹に押し込んだ。
「身空木!」
「だい、じょうぶ、よ!」
咄嗟に伸ばそうとした手を削雛さんの言葉で止められた。
「ほほう、痛くないのかね?」
「い、痛くないわよ、あんたなんかに痛がってやるのも癪だしね」
でも両目にしっかりと涙を浮かべてますよ、削雛さん。
「はん……あぁこれは傷が膿んできているな。僅かだが発熱もしている。まともな治療もしていないようだ。切り傷に、こっちは随分と深いじゃないか、本当に痛くないのかね?」
と、傷をグリグリし始める身空木の機嫌が、どんどん良くなっているように見えるのは気のせいではないだろう。
しかし削雛さんはその手を払おうともせず、
「も、もし包帯の下も見たいなら解いてもいいわよ。自分で適当に治療しただけだから、ちょっとグロイことにはなってるとは思うけどね」
「……ふむ、遠慮しておこう、血を見るのは好きじゃないのでね」
身空木は満足したらしく、削雛さんの腹から親指を引き抜いた。
「どうして、病院に行ってないんですか?」
御影ノ学園内にも小さな病院はある。最先端の治療法とまではいかなくとも、学生証と保険証さえ見せれば、最低限の治療が受けられるはずなのだ。
これはどう見ても彫刻刀で少し削った程度の傷ではない。
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