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「依頼の達成条件は」
「私を取り巻くドッペルゲンガーの正体を暴いて、そして怪談そのものを最後には……――殺して」
ここまで聞いて身空木は大きく一息吐いてから、残りのコーヒーを一気に飲み干した。
「少し、時間をもらおうか」
背筋を伸ばし、首を一回し、両手の指を絡め、胸の前へ。
身空木から、いつもの気怠そうな空気が消える。
そして目を深く閉じて考え事を始める。
考え事を始めるときは、いつのこの格好だ。
僕には胡座を組んでは手を合わせるこの構えが、不格好な座禅にも、何かの祈りにも見える。
本当なら食券三月分という報酬だけで、考えるまでも無くGOサインをだしたい。
でも身空木の考えにはそれ以上の価値がある。
こうやって考え事を始めた身空木は必ず意味のある行動をする。
身空木楓、軽薄で、気分屋で、嘘吐きな男。
だけど、その思考は蜘蛛の巣だ。
糸を張り、思惑を巡らせ、必ず答えを捕らえ、自らの足を決して汚さない。
全てを絡め取る、白と黒の天網。
渡り歩けるのは、身空木ただ一人だけ。
その行動が、今までこの部を襲ってきた数々の窮地を押し退けてきたのは事実で、実績があるので、ここは我慢と僕はコーヒーミルを手入れする。
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