プろ口ーgu

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   僕よりも遙か昔から、このような場所に身を置く者達は往々にして相場が決まっているのだ。    人の暗闇を好む者達。    それは学園の不思議、魑魅魍魎と怪物達。    つまりは、怪談話の住人達だ。  幾重の姿を写し取り、増殖を続ける巨大な逢瀬鏡。  夜な夜な首を求めて彷徨う、野太刀を携えた赤甲冑。  満月の夜に現れ、出会った者に不幸を呼ぶ、黄金の兎。  立ち入った血肉を啜り、踏み入った骨身を喰らう、黒い教室。  断ち切れない紅い糸を紡ぎ恋慕を結ぶ、女郎蜘蛛。  夜空を舞い、月夜を自由に飛び回る、翼の生えた猫。  他者の願いを代償にどんな願いも叶える、白い少女。  そんな数えれば切りがなく、辿れど影のように逃げていく話の数々。  学園の七不思議なんて事を話し出せば、明らかに不思議と謎が七つでは収まらず、比較的ポピュラーなトイレ近辺の不思議だけでも五つ以上はあるのだから、ここに使われなくなった音楽室の噂を足しただけで話は二桁目へと突入する。  怪談話の飽和状態。  一体何が本当に恐いのか、それすらあやふやになるような曖昧な世界に、怪物達は意を唱え、そして――  ――殺し合いが、始まった。  溢れすぎた怪談話に怪談の住人達が、そんな現状を良しとするわけもなかったのだ。  弱い怪談話は信憑性の強い方へ、心が擽られるエピソードの方へ、好奇心と恐怖心の指針を得てより恐ろしい話へ、討伐、統括、統合される。  そう、我こそが恐怖である、と。  そしてまた新しい謎がどこからか自然と湧き出し、他の不思議を飲み込み、飲み込まれを続け、膨れては滅びを学園内で繰り返し始めたのだ。  それはまるで、 『まるで化け物達の喰い合いのようだろ?』  と、皮肉混じりに笑って学園を卒業していった先輩の事を思い出した所で、僕は目的地に到着していた。
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