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少々大雑把にし過ぎてしまっただろうか。
美術と芸術の差はなんだろうとか、そのぐらいのつもりで質問したつもりなんだけどなぁ。
「……もういい、君に芸術を説いても無駄だとわかった。芸術とは少し違うかもしれんが、あの女が作った物はここにもある」
と、突っ伏したまま、身空木が頭をゴンゴンと机を指すように打ち付けた。
「ここって、この机?」
「違う違う、ここだよ、ここ」
その格好のまま、身空木が両手を広げた。
「この食堂、これはあの女がデザインした物だそうだ」
驚いた。
これは正直に、ただただ普通に、
「それは、すごいな」
「そう、癪なことにあの女はすごいんだよ」
背を起こしたかと思えば、その顔はなぜか唇を尖らせている。
「あの女は、絵画、彫刻、陶芸、そして建設デザインに至るまで手広くやっている。この食堂をデザインしたが僅か十一歳の頃だそうだ」
十一歳、神童という奴なのだろうか? 神童と称するための年齢制限は知らないけど、削雛さんは中学に入る前から、こんな場所のデザインを任されるほど高名なのだろう。
十一歳、その頃たしか僕は…………――参照エラー。
「芸術の事はわからないけど、美術なんかはその一部で、削雛さんがスゴイってことはわかった」
「あぁもう今はそれで充分だ、その程度に止めておけ、それ以上理解しなくていい」
天才芸術家、削雛千鶴、クリエイター。
言われた通り、それぐらいで理解を止めておこう。
「じゃぁ現段階における、その天才芸術家を取り巻く事件の全貌を身空木はどう見てるのか、話を移そう」
「随分と答えを急くじゃないか」
「だけど、大体の調べはついてるんだろ」
頷いて、身空木はあっさりと肯定する。
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