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削雛さんの依頼を受けてからの身空木の行動は的確かつ迅速だった。
三日後、僕は正式な(詐称行為による)申請に基づき、御影ノ学園芸術学科へ転科とあいなった。
もちろんこの行為そのものは御影ノ学園内では規則に反していない。
若者が新たな夢を見つければ、教師の認可が下りる程度の成績と内申点で転科は可能なことだ。
でもだからといって、まさか部活動の一環でここまでするとは思っていなかった。
特に普通科であることに目的もこだわりもないとはいえ、身空木がどうやってこんな短時間に教師達を言いくるめたのか。
考えたところで僕が思いつくことはないだろう。
身空木自身の転科に関しては、まるで最初からこの学科にいたかのように、事実なぜか最初から教室には着席して、僕の到着を待っていた。聞けば、身空木は芸術学科に一年の頃から本当に在籍していたというのだ。
もちろん、身空木は普通学科の生徒のはずだ。
僕はクラスこそ違うけど、身空木がしっかりと普通科のクラスで授業を受けている姿を見ている。
僕にとってこれは矛盾。
だけど、この際、もうその事には触れないでおく。
御影ノ学園前代未聞の如何様師(トリックスター)。
真実を嘘にして、嘘を真実にして、欺し騙しで生き抜いてきた身空木の素生なんて知るわけもなく、また知りたいとも思わない、これも考えるだけ無駄なのだ。
今回の目的は削雛さんのドッペルゲンガー問題の解決。
その正体を暴き、怪談の評判を下げ、最後には無かったことにする。
それだけだ。獲物(コタエ)だけをシンプルに追いかける方が、僕みたいな奴には向いている。
「ことがことなんだから、僕達としても急ぐことに不都合はないだろ」
僕達が請け負った依頼、そこには当人の安全確保は当然のように含まれる。当初の提案では事の解決まで、削雛さんには一時的な休学を身空木が進めた。
が、削雛さんはこれを拒否。
聞けば、自らの腹部を切り裂かれても平然と授業には参加、一度たりとも授業を休むことはなかったらしい。
頑なな、意地とも、決意とも取れるその意志には、さすがの身空木も進言を引っ込めた。
ならせめて、問題の解決まで護衛役として僕を傍に置くことを条件に追加した。
ちなみに、僕は許可を求められていない。
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