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「ならその場合、自らの自傷行為を誰かの仕業に見せかけようとする偽証行為の可能性を含めるが、やはりそれもない」
「どうして?」
「君は本当に何を見ていたんだね? 仮にも乙女が男の前で脱いで見せたというのに」
「生々しい傷と、それを虐める意地悪なセクハラ男」
「いやそこじゃない」
「パステルピンクの下着?」
「このがっつりスケベ! どこを見ているんだ! い、いやいやいや、違う、なんでそんな所は見逃していないのに肝心な所を見逃しているんだね」
「他に見るべき下着なんてあった?」
「下着から離れろバカ」
もちろん僕がはいているのは男物だ。
女物なんてもってないです、妹のをこっそり借りてなんていません。
「それで、僕は何を見落としていたんだ?」
「傷だよ、あの女の傷のことだ」
「見逃してなんていないだろ、ちゃんと見てたよ」
「違う、腹の傷じゃない、他の傷だよ」
「他の傷?」
「比較的に新しい物と古い物。隠したつもりだったのだろうけどね、本当は身体のあちこちに傷があったんだよ」
やたら近づいて見ていたと思えば、そんな所を見ていたのか。
「でも傷なんて普通に生活してたらよくはなくても、たまにはあるだろ」
「なら君は同じ二の腕を斑点模様に火傷したことはあるかい?」
「火傷を? ……斑点模様になんて」
日常生活で火傷をする可能性が一番高いのは炊事場か、この季節なら一部暖房器具での可能性はあるとしても、斑点模様……。
「火傷では、なかったよ」
「そう、火傷としては異常なのだよ。それに上半身数カ所の内出血、両膝に軽度だが擦過傷、髪の一部は奇妙な千切れ方をしていた。あと一度も虫歯にもなっていないだろうし、歯並びも見る限り実に立派な物をしていたのにもかかわらず、なぜか噛み合わせが悪いように歯を何度か擦り合わせていた。化粧で隠してはいたが片方の頬だけが僅かながら腫れていた事、コーヒーを二杯ともわざと冷まして飲んでいたところも合わせ見れば、これは内頬が切れたかなにかして、その部分が気になっていたのだろうと推察がつく。ま、猫舌だったら話は別だがね」
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