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指上で回り踊るフォークが僕を指す。
新たな傷に触れる事は、傷に踏み入ることになる、か。
「例えそうであっても、せめてこの事件が解決する間の弾避けくらいにはなってあげたいよ」
「……そうか、君が決めたのなら、それでいい。いや、話が逸れてしまったな。私が自傷行為ではないと君に伝えた理由はこんな事を説明するためではない」
「それぐらいわかってるよ、つまりは」
「そう、つまりこの事件には犯人が必ず“居る”と言うことだ」
削雛さんを刺した相手は、必ず存在している。
この学園に、確かな影を落としながら、今も存在している。
追い詰めるべき相手がいる、追いかける相手がいる。
身空木は、ただ僕に獲物の存在を確かにさせたかっただけだ。
「話を無駄に長引かせて悪かったよ、それで僕はどうすればいい?」
「そうだな、とりあえず」
なぜかフォークを今度はゆっくりと次の獲物に差し込み、ナイフを優しく添え、背筋を伸ばして、
「黙って猫を被れ、そろそろ実がやってくる。理解はしなくていい、後で一言に纏めてやろう」
見れば、まっすぐにこっちへと向かってくる女性が一人。
削雛さんではない、彼女は確か……。
「こんにちは、ここの席よろしいかしら?」
迷うことなく、まっすぐにこっちへと来てから彼女は微笑んだ。
右腕を包帯で巻いて、三角巾で吊るした彼女が、僕にはなぜか果実を抱えているように見えた。
§ § §
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