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「そう、彼女のドッペルゲンガーの噂が流れ始めたのは今から一月ほど前。
でも、この話をする前に、さらにもう二月前に話を戻さないといけないのだけど、いいかしら?」
僕は頷いて話を促す。
「今から三月前、彼女はそれまで本当に皆に好かれていたの。
責任感が強くて、若干ぶっきらぼうな所はあっても、公平に優しくて、なにより天才だったのよ。
彼女は芸術の神が造り上げた生きた芸術であり、芸術を生む芸術だった。
自らのスタイルという概念を持たず、絵画、彫刻、版画、陶芸、時には建築に至るまで、彼女はその両手で作り出せる物ならなんでも造り、自由の限りに創造した。
誰もがその才能を認めてたわ。その名前は私が小学生の頃から、既に神童として有名だったの。
だから私も副委員長として彼女の補佐を先生から言いつけられた時には誇りにすら感じていたのよ。
私は美術系の専攻だったけど、それでもこれから彼女を支えて、時には相談相手になり、そしてライバルであり、互いを高めていければと思ったわ。私達は良い友達になった。
でも彼女は私の事をそうとは思ってくれてはいなかったの……」
僕は首を傾げて話を促す。
「私達の学科が特殊な単位制なのはご存じよね?
授業に参加しなくても作品と呼べる物を定期的に仕上げて、学園指定のコンテストに参加すれば単位を認めてくれる。
私はまだ自分の技術やセンスがその域に達していないと解っていたから、ただひたすら絵を書き続けたわ。
凡人の私にはそれしかできないから。
毎日毎日、クロッキー帳を何冊、何十冊と描き潰して続けたわ。
それで今年の夏、私は初めてコンテストへの参加を決意したの。
大きなコンテストには自信が無かったから、マイナーなコンテストに、それもこっそりと参加することにしたの。
そのことを担任に告げて、削雛さんには伝えなかったわ」
僕は首を傾げて話を促す。
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