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地下室を思わせる暗い廊下と階段を阿弥陀籤でも遡るかのように歩き渡り、登り、ようやく目の前に現れた古びたスチール製のドアノブを回し開けて踏み出せば、冷たく尖った空気が肌と鼻腔を刺してきた。
見れば、今日も景色は灰色に染まっている。
澄み渡る鋭利な空気と寒々と濁る、初冬の空。
鼠色の薄い雲を空の果てまで見渡せそうな、第六旧校舎の屋上は東南北を新旧入り交じった校舎に囲まれている。
それらの包囲を唯一回避した西の空、その下には灰色の街が広がっている。
学園を囲うように流れる川の中にある、小さな街。
特筆すべき歴史も無ければ、目新しさもない、時代に乗れず、流されず、良きも悪しきもそのままに、白黒付けずの灰色で凍り付かせたかのような薊ヶ原の町並は、今日も変わらずそこにある。
見れば見るほど、温もりを吐き出したくなる景色に、思わず首にしていた赤色のマフラーを口元まで引き上げて、フェンスへと歩を進めた。
今、足下にあるこの校舎も古さとしては学園内では半ばとなる。
しかし不本意な話、こんな校舎にも不思議話や噂の一つぐらいはあるのだから、御影学園が保有するその手の話は、やはり飽和気味である事は否めないだろう。
上から数えて、六番目となる古びた校舎の不思議話。
不思議ナンバーにして三十番台にはランクインしているだろう、語り草が一つ。
ここは一つ、その話に纏わる、僕の事情を語ろうと思う。
空腹になってきたのか、腹の虫が唸っている。
あ、そもそも、最初に言っておくべきだった。
これから話すのは、僕と怪物達と作り者の話。
つまりは誰かにとってはどうでもいい話。
この話は、
ここで、
この場所で、
この学園で、
この池の底で、
これは僕が人間を“捕食”した話だ。
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