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「それからの彼女はまるで人が変わったように……いえ、人の皮が剥がれたように、本性を剥き出しにして荒れだしたわ。
作品を作ることもなくなったわ。
だけど誰も彼女の味方をする人なんていなかった。
皆、裏切られた気持だったのよ。その頃よ、彼女の周りにドッペルゲンガーの噂が流れるようになったのわ。
持ち物が無くなったり、複数箇所で彼女が同時に目撃されただなんて噂が流れるようになったの。
でもすぐに彼女が皆の気を引きたくて、わざと噂を流しているんだと皆が察したわ。
そして誰も彼女を見なくなった、誰も彼女を評価しなくなった、誰も彼女を認めることはしなくなった……そして事件はおこったわ」
僕は首を傾げて話を促す。
「削雛さんが委員長の任を解かれ、私が副委員長から委員長になって少しした日よ。
その日は特に忙しくて帰りが遅くなってしまったの。
暗い雨が降る、放課後、私は下校時刻に焦って廊下を走っていたわ。そして四階の階段に差し掛かったとき――」
僕は黙って、話を促す。
「私は彼女に突き落とされた」
僕は黙って、話を促す。
「忘れもしないわ」
僕は黙って、話を促す。
「ふりほどかれた髪、血走った眼、鼻にこびり付く異臭」
僕は黙って、話を促す。
「あれが不慮の事故や、ましてやドッペルゲンガーだなんて、そんなアリもしないオカルト話のせいにされてたまるものですか」
僕は黙って、
「彼女は私を殺そうとしたのよ」
僕は黙って、
「もちろん、次の日彼女を問い詰めたわ。
だけど目撃者はいなかったし、削雛さんも知らないと言い逃れをしたわ。
先生にも報告したの、でも、さすがに削雛さんもそんなことはしないだろうって、本人から詳しく話が聞けるまでは警察沙汰にはしないでくれと頼まれて、私は仕方なく従ったわ」
僕は、
「もう私の言いたい事はわかるわよね」
「削雛千鶴とは縁を切りなさい、全部貴女のためなの」
「さもないと、貴女も彼女に盗まれるわ」
「ねぇ最後に聞かせてちょうだい」
「貴女は彼女の友達なのかしら?」
僕は頷いて肯定した。
鈴村さんが大きく目を見開いた。
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