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なので、
「このがっつりスケベ」
ガツリっと、茶髪の顎へ横薙ぎに食い込んだビニール袋から、そんな感触が伝わってきた。
蹴り飛ばされたボールみたいに顔が個室の方へ身体ごと飛ばされて、便器の角に頭をぶつけ、茶髪男はそのまま動かなくなった。
「うん、確かに女子高生は最強かもしれない」
女装の利便性は充分に解った。
だとしても、やっぱり好きこのんでこんな格好はしたくない。
とりあえず、それが僕の現段階での答えだった。
「大丈夫ですか、削雛さん」
またも呆気にとられている削雛さんに手を差しのばしたところで、互いに目があった。
「……え、あ、うん」
「本当に大丈夫ですか? なにかされましたか?」
「大丈夫って……大丈夫、なの?」
あれ、それは僕が質問したことなのに。って、あぁそうか、しまった。
「あぁすみません、たぶんお茶とかは無事ですけど、パンが潰れちゃいましたね」
再び失念、ってうわぁぐちゃぐちゃだ、クリームとジャムが熾烈な辛味無き戦いを繰り広げちゃってる、こし餡餡と添加を狙う純正小豆チームが混ざっての三つ巴の戦いが始まりそうになっている。
パンの袋は左に手にでも持ち替えておくべきだった。
あのおばちゃんまだいるだろうか……。
「そんなことじゃ、なくて……こいつらまさか死んで」
「あぁ大丈夫だ、死んではいないよ、ふふ、こいつは前歯が三本へし折れているがね」
振り返ればしゃがみ込んだ身空木が金髪男の瞼を摘んで、手首を掴んで脈を測っていた。
「いや、なんでしれっといるんだよ、身空木」
なぜか身空木が居た。
神出鬼没を旨としているのは知っているけど、いくら何でも唐突すぎだ。
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