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「すこし野暮用をすませたくてね。それにしてもまた派手にやったもんだ。髪を切って身形を整えたところでケダモノはケダモノのままのようじゃないか。少しは手加減できなかったのかね。それに――」
それは立派な人間ができる高等技術だ。
「――弾避けとしては少々失格のようだな」
「失格判定は受け入れる。でも気絶させるか、なにかしておかないと、起き上がってきたら恐いだろ。そんなことより」
「はん、憶病者め、わかってる、野暮用ついでに“しっかり”カタにハメておくとしよう」
嘘吐きに憶病者と言われたくない。僕を騙した分もあわせて、ここは一つ問い詰めるべきかと思ったが、ふと身空木の持ち物が気になった。
僕と同じように、やたら膨れたビニール袋を手首に通している。
なるほど、と思わず心中で頷いてしまった。
こういった状況すら身空木にとっては想定の範囲内だったということだ。
代わりのパンか何かを、身空木も買ってきてくれたのだろうと察しがついた。
そもそもこういった状況だと最初から教えてくれれば、僕だってそれなりの準備をしてから来る事もできただろうに、本当に人が悪い奴だ。
「さて、私はさっそく野暮用に取りかかるとしよう。シュウ、ちょっとこっちへきてこいつを運んでくれ」
気絶したこいつらを保健室にでも運ぶのだろうかと思い近寄れば、立ち上がった身空木が手にしていたビニール袋を手渡してきた。
「………………」
中身を見て絶句。
パンや菓子なんて、そんな甘いもんじゃなかった。
中身は、
・やたら長いガラスの試験管数本
・ガムテープ
・アルコールランプ
・ガス缶バーナー
・メスシリンダー
・瞬間接着剤
「さて、私がしたいことは、わかるな?」
活き活きとした笑顔で微笑まれた。
人が悪いじゃない、悪い人の笑顔だった。
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