ドッぺru原画ー ノ 壱

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ドッぺru原画ー ノ 壱

 小さく震えて腹が鳴った。どうやら今日も僕は腹を空かせているようだった。  午後三時十分、成長期を今だひた走る高校二年の男子生徒にとっては、恐らく正常で一般的で健康的な空腹時。  だけど、どう正しくあろうとも僕は空腹というものが嫌いだ。  身体の真ん中に空洞でもできたかのような空虚な苦しみは何物にも代え難く、例えようがなく、なにより僕が、僕以外の何かを欲している合図のようで、堪らなく嫌になる。  ならそこらへんにある何かを適当に食べ、その隙間を手早く埋めてしまうのが一番良いのだけど、この学科内には制限時間の厳しい学食と甘党向けの自販機しかない。  諦めて制服の上から腹に手を当て、空腹を誤魔化すように僕は埃を被った階段を上っていた。  現在、午後三時十五分。  一般生徒絶対厳守の完全下校時刻まで、残り二時間四十五分。  階段を上りきった所で現れた扉を開いて、外へ。  低音のエンジン音が微かに聞こえてくる。  錆びた給水タンクを乗せた古びた物置部屋、薄曇りの冬空と混じり合うくたびれたフェンスが、まるでよくない物でも封じ込めているかのように思えてしまう。  ここは第六旧校舎、屋上。   普段なら用も無ければ一般生徒は絶対に足を踏み入れようとも思わないだろう学園内における辺境の地であり、僕がいつものように訪れる事となってしまった、いつもの場所。  ふと、物置部屋の扉へと視線が向かった。  いつもは、あえて視線を向けないようにしているスチール製の扉、その横。  そこには、ケヤキの木材で作られた看板が打ち付けられている。  看板なのだから、当然ながらそこには文字が書かれている。  そして、この場所を称するに似合いの名前がある。  ――そこには、こうある。  『怪談部』  ――、と。  念のために忠告しておくと、別に笑い所ではない。  
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