ドッペru原画ー ノ 参

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     そして、削雛さんの先導で僕等は終始無言を保ったまま第二特別美術室へと向かい、到着する。  美術室。  恐らく、次いで条件に付け足していた身空木の絵を書くためだろう。  削雛さんが鍵を開け、後に続いて美術室に入って、蛍光灯の明かりが点った瞬間、僕は閉口する。  一歩先の別世界に、目を見開いた。  特別美術室、別に特別でなくても仮にもそこは美を追い求めるために建造された部屋だと思っていた。  そんな僕の価値観を覆す混濁が、そこにはあった。  第二特別美術室、そこはあまりにも汚れていたのだ。  壁に取り付けられた大型の換気扇、天井に埋め込まれた大型の冷暖房、正常な位置づけを保っているのが、それだけなのだ。  所々で割れた蛍光灯、筆にパレットに洗濯物が押し込まれた流し台の数々、散らばる無数の丸めた用紙と美術用具。  カビ臭い、ほこり臭い、これはどう嗅いでも何かが腐ってるとしか思えない。  日の光を遮光カーテンに妨げられた空間は、しっちゃかめっちゃかぐっちゃぐちゃ。  真っ先に物取りの犯行を疑ったが、鍵を開けた削雛さんが何一つ驚くことなく入っていったことから考えるに、それは違うのだろう。  ならば、この状態が、この部屋のあるべき姿ということらしい。  ならばさらに酷い、あんまりだ、僕等の部室の繁雑ぶりが可愛く見える。  キャパシティを振り切った上で、もう入らないと涙してる所に無理矢理押し込んだとしか思えない。  トランプの代わりにキャンバスで神経衰弱でもしたかったのだろうか。  積み木の代わりに石膏彫像でお城でも作りたかったのだろうか。  机と椅子とイーゼルを壁際へと寄せて重ねて積み上げて、バリケードでも作ろうとしたのだろうか。 「まるで鳥の巣だな、見事なものだ」  後から入ってきた身空木は、むしろ現状に感心するように言った。  唯一、入り口から進んだ中央付近にだけは、平坦なスペースがあった。  五畳分程度、そこだけは、教室の床が見えていた。  そんなスペースに向け、床に散らばった道具やゴミを踏みつぶしながら中央へ。  壁際から椅子を引き抜き据え置き、座り込んで削雛さんが言ったのだ。 「ようこそ、一応だけど、ここが私のアトリエよ」  どうやら、削雛さんは、破滅的に、破壊的に、整理整頓が苦手な人のようだ。
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