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こんな風に散らかりきっていますが、私の部屋はいわゆる一つの芸術なのですよ。
これは整理整頓を嫌う妹がよくする言い訳の一つ。
自室は自分の魂を表すらしい。
実はそれが本当の話で、このカオスの中にいつかは秩序が見えてくるのだろうか。
削雛さんの魂が見えてくるのだろうか。
その魂を美しいと思うのか、素晴らしいと思うのか、むしろ呆れて掃除機をかけるのかは各々の価値観によるものとしても、審美眼なんて持ち合わせていない僕には、やはり清掃、整理整頓の対象にしか見えない。
清掃欲を我慢する現在、午後三時二十分。
そのままそこら辺に転がっていたクロッキー帳を拾い上げ、落ちていた鉛筆を手にとって、削雛さんは作業に取りかかっていた。
そして身空木といえば、
「さすがに、この時期にこの格好は寒いな」
脱いでいた。
「あんたがモデルになるって言ったんでしょ」
もちろん芸術科の制服をという意味である。
身空木は、なぜか常備してある普通科の黒セーラー服に廊下で着替えてきた。
普通科の制服は耐寒度が低い。ならカーディガンか何かを一つ羽織ればいいのだが、今度はそれを削雛さんが拒否した。
嫌がらせではなく、部室で出会った時の格好を描きたい。
それがモデルを志願した身空木に対する削雛さんの要望だった。
「はん、適当な作品を描かれては困るからな、題材は最高のモノを使うべきだろう」
「自分で自分を最高とか言う奴なんて初めて描くわよ」
鳥の巣の中で、同じ椅子に対面して座り合う二人。
猫を被ったポーズで、上品に座る身空木と、
崩して組んだ足にクロッキー帳を乗せて鉛筆を滑らせる削雛さん。
僕はそんな二人を端から床に座って眺めている。
芸術を理解できない僕でも、今の二人こそが絵になると思えた。
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