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「あんた、そうやって黙ってれば美人なのにね」
「同意見です」
「へぇ、なによ、あんたこんな奴が好みなの?」
「削雛さんの方が好みですよ」
ベキリ、と鉛筆の芯が折れる音がした。
慌てて左右を見回して、鉛筆削りは見つける事ができなかったのか、今度はシャープペンシルを見つけ出して削雛さんはスケッチを再開させる。どうやら弘法ペンを選ばずというか、すごく諦めのいい人だった。
しばらくの間、作業が続いた。
ただ見ていることしかできないので、僕はついつい空腹感に襲われてしまった。
腹の虫たちのシュプレヒコールを必死に押さえ込みながら、さっき潰れたパン達の尊さを今更ながらに思いやる身勝手さに、思わず落胆する。
そろそろピークを迎えるだろうと危惧した頃、黙々とペンを走らせていた削雛さんが、ぽつりと呟いた。
「……それで、何かわかったの」
用紙を引っ掻く小刻みの良い音に描き消されそうな程の、小さな声で。
「なにをですか?」
「色々よ、私の周りを調べたんでしょ」
「あぁ、えっと、僕は考え事が得意じゃないので、そういったのは身空木に任せてあります」
本当は、今まで見聞きしてきた話をどう解釈していいかが解らないだけだけど。
あぁそれが考えが得意じゃないという意味になるのか。
「なので、そろそろ喋りたくてしょうがないと鬱陶しいアイコンタクトを送ってくる身空木に聞いてやってください」
さっきから表情一つ動かさず、目線から熱光線が両目から発射され、僕の胸元辺りを焼いている。
「あんた、喋ってないと生きてられないの?」
目からの熱量が増す。どうやらそのようです。そろそろ発火しかねません。
「……わかったわよ、どうぞ」
言葉と同時に身空木の胸が深呼吸で大きく膨らんだ。
そして吐き出すのだ。
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