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「あぁまったくまったくまったくだよ、この私に喋るななどと、それは花に咲くなと言っているのと同義だ、星に輝くなと言っているのと同じだよ、私という星を失ったらそこのケダモノが何を目印にしてこんな真っ暗な世の中を歩けばいいのか解らず途方にくれてしまうじゃないか。あぁそれになんだなんだ私よりそこの女の方が好みとはどういう事だシュウ、弁解しろ、今すぐ言い訳をしろ、でないと私は泣くぞ、嘘泣きをするぞ」
「嘘泣きなんじゃん」
「女子高生を泣かせると恐いんだぞ、社会的に抹殺されかねないんだぞ、明日には朝刊の一面に名前が載ってしまうんだぞ、だから、さぁ、はやく!」
「僕は身空木より、削雛さんの方が好みだ」
「うっ、ぐっ、うううううううう!」
うわ、まじで身空木が泣き始めた。
身体こそモデルの鏡のように動かさず、しかし両目と唇だけを震わせてボロボロと涙を流し始めた。
ボロボロだ、ボタボタと、すごいを飛び越して気持ち悪い。
だけど嘘泣き、知っている、こいつは自在に涙を流せるのだ。
人を騙すのに涙は有効だ。身空木に言わせたら本当に武器になるらしい。
「あんたの泣き顔は絵にならないわね」
ピタリ、と身空木の涙が止まる。涙腺に蛇口でもついているんだろうか。
「なんだ、ノリの悪い女だ。こんな可憐な少女が涙を流しているというのに」
「意味も無く流れる涙に価値なんてないわよ」
「それは残念だ、自信があったのだがね」
「それで、私について、私の周りについて、ドッペルゲンガーについてどれだけ解ったの」
「その質問には答えられない」
「どうしてよ、どうせ鈴村辺りから話が来てるんでしょ?」
「委員長とは話をさせてもらったよ。いや、一方的にしてきたと言うべきだろうがね。だがそこから得られた情報は教えることができない。まだ報酬を貰っていないからだ、その絵が完成するまで君に話すべき事はないし、ドッペルゲンガー事件を解決するつもりもない。それより、私から質問をさせてもらってもいいかね?」
「自分は話さないのに、こっちには質問するわけ?」
「報酬を貰う前から前働きしてやっているんだ、いいから質問に答えろ。あぁもちろん作業は止めずにだ」
「……いいわよ、で、なに?」
言われた通り、ペンを止める事無く、両者が視線を絡め合った。
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