ドッペru原画ー ノ 参

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 そしてまた、まるで異星人でも見るような目で、身空木が僕を見るのだ。 「人それぞれだけど、早い人なら二時間ぐらいで作品と呼べる物を描ける人もいるわ。私の二週間も少し早い方だと思うわよ。変わったテーマだったから、私も時間かけて描いたつもりだったけど」  つまり削雛さんは速筆と呼ばれる部類なのだろうか。  絵なんて描いたこともない僕には、解りかねることだけど。 「もっと早く描こうと思えば、こんなもんよ」  などと謙遜気味に見せられた鉛筆画に、僕は両目を奪われた。 「お、おお……」  奪われ、見入った。  そこに描き込まれていたのは、紛れもなく身空木だった。  これを鉛筆(途中からシャーペンだけど)で描いたとは、作業工程を目の前にしていたのにも関わらず、思わず疑う出来映えだった。  絵だ、確かに絵ができあがっている。  よく似ているのではなく、まさに生き写しだ。  黒鉛と粘土の塊で、どうしてこんな質感が生まれるんだ。 「ここからもっと細かい部分の描写や陰影を描き込んでいくから、徹夜で仕上げたとしても、完成は明日の夕方ぐらいよ」    ここからさらに精密な描写がされていくのか。素人の僕から見れば、もうこれだけで充分に作品と呼んでしまいそうなできなのに。食堂を見た時も驚いたけど、直に目の前にすると、また実感が違うものだ。  再び素直に、単純に、感嘆。 「すごい、ですね」  が、そんな僕の胸元を再び焦がす熱視線。次いで身空木が、 「そんなに驚く程のことじゃない。何かを模写する技術や、模造する技術は磨けば幾らでも似せて作ることができるようになる。だが、模写する対象より先に作品を作ることは普通ならできない。ならどうやって鈴村がこの女より先に同じ絵を描き上げたのかだが、しかしそれはお前が先に仕上がった作品を盗み見て描いたと捉える方が自然だろう」 「だから私は盗作なんてしてないっ言ってるじゃない。あいつの絵だって作業場に入っただけで、見てなんかいないわ」 「だが鈴村はお前より一週間も早く作品を提出、専門の鑑定まで行い白判定。その上お前の絵は見せていないのに、こっちは相手の作業場にまで入ったときている。あらゆる証拠、証言がお前を黒だとしているのに、それでもまだ」 「私は盗んでなんかいない……鈴村の作品なんて、見てない」  削雛さんの表情が、僅かに曇ったように見えた。
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