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提出日の差を、最初から抜け目なく調べ終えていた身空木が、
「おや、自信がないのかね?」
そんな隙を見逃すわけもない。
「…………見ていない、はずなのよ」
再び絵と身空木に向き合って、ペンを走らせながら、
「でも、思う事があるの」
と、続けた。
「私は私にしか作れない物を追いかけ続けて来た。私は、私が生まれた理由を自分で作りたかったのよ。だから、沢山の作品を見てきた……。この両目で、景色を、人を、空気を、作品を見ては頭の中に収めてきた。そして誰かと似ないように、誰かの真似をしないように、技術だけを学びながら、自分の作品を探し続けていた」
いつもなら、ここらへんで横やりをいれてきそうな身空木が、静かに口を結んでいた。
その目に、奧に、削雛さんをしっかりと収めながら。
「試行錯誤して、完成した作品を何度見ても『あぁこの作品は、私じゃなくても、きっと誰かが既に思いついて、形にしているかもしれない』って思うのよ。でも、そんな風に思うのは、たぶんそういった作品を、私がどこかで見ているからなのよ。
それは、あの絵を描き上げたときも、そう思ったわ。
なら、もし、私が鈴村の作品を実は目の端に捉えていて、勝手にその作風を真似ていたら、知らないうちに頭に収まってた誰かの卵(アイディア)を、自分から生まれた物だと勘違いして暖めてしまっていたら」
なにかを掻き毟るような音がした。
「そして、それを我が子のように扱い、親のように振る舞っているのだとしたら……」
用紙から短い悲鳴にも似た、声がしたような、そんな気がした。
「私は、それが……たまらなく恐いのよ」
本当に消え入りそうな声は、自らが動かすペンの音に描き消されていく。
沈黙を守り、静かに見つめ合っていた身空木が言った。
「それが、全てを拒絶して、お前自身を巣(こんなばしょ)に閉じ籠めた理由か」
表情一つ変えず、ただただ、削雛さんを真っ直ぐに見つめながら。
「…………」
この無言を肯定と取るべきなのか、それとも否定を悩む時間だと思うべきか、だけど僕が解ったのは、芸術家という生き物が、削雛さんという人物が、固執する一部分だけだ。
削雛さんは、自分にしかできない事を 自分という物を探しているのだ。
そして、それが個性(オリジナル)と呼ばれる物なのだろう。
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