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「はん、まぁいいさ、私は私の絵さえ描ききってくれれば、それでいい」
「……どんな妖怪の絵になっても文句は無しよ。それより、そっちはドッペルゲンガーを捕まえる算段はついてるの?」
淀んでいた手先を再び泳がせ始めながら、そう訪ねられた。
確かに、そっちこそが本題である。
無神経かもしれないけど、削雛さんの盗作問題なんてものは、正直どうだっていい事なのだ。
僕達の目的は、ドッペルゲンガー事件の犯人を捕まえる事だ。
「勿論、算段は既につけてある、仕掛けも上々、あとはお前の絵ができれば、糸を垂らして獲物がかかるのを待つだけだ」
「随分と強気ね」
「私は優秀だからな。それでは質問を変えるとしよう、心苦しい質問ばかりをしてすまなかったよ」
珍しい。身空木が自分の行動を謝罪した。
すこし身空木を見直した。
こいつだって気を遣う事があるのだと、僕は初めて知ったのだ。
「別にいいわよ、気にしてないから。それで?」
「なんてことはないんだが、お前はいつから“イジめられて”いるんだ?」
と、身空木は僕が聞けなかった事をあっさりと訪ねたのだ。……満面の笑みで。
「おい身空木、もっと他に聞くことがあるだろ。それにオブラートに包んで言えないのかよ」
むしろなんでこんなタイミングで聞くんだよ。
デリケートな部分じゃないのかよ、そこ。
「これは君が先に手を差し入れた話じゃないか。それに今更舌先で簡単に溶けるような物に包んでどうする。ただですら私は舌が多いらしいのだよ?」
やっぱり舌も多いのかよ。
「私、別に虐めなんて“受けてない”わよ?」
と、削雛さんは毅然とした声で返した。
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