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「ほう、あれを見られても、まだ虐めじゃないと? 随分と剛情じゃないか」
「そうよ、あれはあいつ等が勘違いしてやってるだけのことよ」
「勘違いだと?」
「そう、勘違い。連中、普段は私のために“怪物狩り”をしてやってるとか言ってるわ。“私を”ドッペルゲンガーだと決めつけてね。だからあいつ等はドッペルゲンガーを虐めているわけで、私が虐められているわけじゃないわ」
「そうか、なるほどだ、実にくだらない」
何がなるほどなんだろうか。
こいつは何を納得しているんだろうか。
僕には何一つ納得できる事がないのに。
「そんなの、なんの根拠もない、ただの言いがかりじゃないか」
「そう、これは言いがかりで決めつけだよ。だが根拠なんていらないのだよ。シュウ、ドッペルゲンガーがどんな怪物なのかを思いだしてみるといい」
ドッペルゲンガーが、どんな怪物か。さすがにそこまで僕も物忘れが酷いわけじゃない。
「対象者と瓜二つの姿をして現れる怪物、だろ……?」
「そうだ、なら対象者とまったく瓜二つで現れたら、君はどっちが本物か言い当てる事ができるのかい?」
「どっちが本物か分かるような質問を、その場ですればいいだろ」
「では双方が同じ答えを出したらどうするんだい。もし同じ記憶すら持ち合わせていて、どっちも私は偽物じゃない本物だと言えば、他人にそれを確かめる術はない。そして当人にすら自分が本物だと実証する方法を失う。これはそんな風に“設定”された怪談になっているのさ」
「そんな……そんなの」
どんな証言をしようと、どんな証拠を見せようと、それはドッペルゲンガーもできると言われてしまえば、自分ですら本人である確証を失うという、ことらしい。
「むちゃくちゃだ、それでも言いがかりの域を出ない。本物である根拠もなければ、偽物だという根拠だって同時に無いはずだ」
「だから決めつける事ができるのだよ。他人は人の中身を割って見ることなんてできないんだ。ならば身勝手に、一方的に、独善として根拠もなく、偽物だと決めつけにかかることができる」
つまり……これも実害ということらしかった。
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