ドッペru原画ー ノ 参

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§    §    §  静寂が針のように鼓膜の奧へゆっくり射し込まれていく。  一息、二息、三息とゆっくり吐き出した所で、  パンっと、身空木が叩く手の音で、時間が動き出した。 「これが、御影ノ学園に古くから伝わる『合わせ鏡の怪』だよ。当時の記録を漁れば、確かに話が始まったであろう頃合いに女生徒と“男性教師”が行方不明に、一人の少女が屋上から身を投げたという記述が残っている。合わせ鏡を使った怪談というのは、この学園の他でもよくある話だがね。そもそも鏡そのものが多くのオカルト話に使われている。古来から合わせ鏡にもなると霊道になるとも、悪魔の通り道になるとも言われている」  何度も聞いても、この話の恐い所が僕には解らなかった。  ただ、身空木の独特の語り方が理解もしていない話を、なぜか恐く思わせる。  例え使い古された話であろうとも、語り方一つで高く売ろうとする身空木ならではの事なのだろうけど。さすがに初めて聞いた時程、話に呑まれはしなかった。  しかし、削雛さんは完全に身空木の価値もない話に呑まれているようだった。  僅かながら、その肩が震えているように見えたのだ。 「じゃ、じゃぁ……私が出会ったドッペルゲンガーは、その始祖の――」 「――いや、それは違う」  ピシャリ、と身空木が否定した。 「この話が生まれたのは芸術科が生まれる少し前だ。話の元になったのであろう合わせ鏡の場所こそ断定されてはいないがね。おおよそ、今この学科で流行っているドッペルゲンガーの怪談は、そこから派生した“作り話”だろう。それも比較的新しい部類に入ると私は見ている」  身空木は言った。  言ったのだ。  やはり、ドッペルゲンガーなんて作り話なのだと。 「……作り話なんかじゃないわ」 「いいや、作り話だ。怪談なんてものは総じて作り話なのだよ。最初の七つを含めて、私は全て作り話だと思っている。ドッペルゲンガーなんて者がこの世に存在しているわけがない。怪物なんて、いるわけがないんだ。恐らく今回もその怪談に便乗した偽者の仕業――」 「違う!」  身空木の否定より、さらに強い否定を削雛さんが吠えた。  
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