ドッペru原画ー ノ 参

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「ドッペルゲンガーは存在している! 偽物なんかじゃない!」  叫びと呼ぶ方が正しいだろう。  両面の壁を揺るがさんばかりの、大きな声で。  巣を壊しかねない声で。 「なんだか随分と楽しそうだね、削雛君」  そんな声に、答える声があった。   §   §   §  来客。この場合、僕達も来客の内に数えるべきなんだろうけど、後からやってきた男は、どこか見覚えのある奴だった。 「お邪魔させてもらうよ。いやぁ削雛君がついに作品を作る気になったと耳にしてね。いてもたってもいられなくなって、ついつい職員会議を抜け出してきてしまったよ」  片手に大きな紙袋。二十代は後半だろうか、目元まで伸びる黒髪、細く角張った顔には線の細い黒縁眼鏡と白い歯。皺一つ無い黒のカジュアルスーツ姿から滲み出る爽やか過ぎる空気を纏いながら、男は遠慮無く削雛さんのアトリエに踏み入ってきた。 「それで、また色々と入り用だろうと思ってね。必要になりそうな画材から取りそろえてきたんだよ」  そのまま何の断りもなく僕等の前へとやってきた。  うわ、近くで見たらよけいに爽やか。  トイレの芳香剤代わりになりそうな人だ。 「あのすみません、どちら様ですか?」  でもこの部屋はどんなに汚れていようと、削雛さんが一人いれば充分に堪えられるので、僕にとってはこの男は異物でしかない。 「おっと、それは傷つくなぁ、僕だよ、真東蒐子君」  誰だよ、馴れ馴れしい。  そもそもなんで僕の名前を知っているのだろう。  ストーカー? これが世に聞く噂のストーカーさんなのだろうか。  ならば危険、この男の勘違いは正さなければならない。 「蒐子さん、あまり冗談が過ぎると“担任”の白津(しらづ)先生が悲しみますよ?」  何か武器になりそうな物はないかと後ろ手に探していた僕へ、身空木の強い口調が射し込まれた。見れば、崩していた姿勢は既に正され、猫モード。  担任、担任? あぁそうか、思い出した。
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