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「転科初日から削雛君と仲良くしてくれているようで嬉しい限りだよ。有馬君とも気が合うようなら幸いだ。二人とも優秀だけど中々に問題児でね、僕も手を焼いているんだよ」
皮肉っぽい言葉なのに、微塵もそんな事を感じさせない。
転科したクラスの担任、白津先生はそんな風に微笑むのだ。
担任というのが、わざわざ生徒の名字を全部覚えている物かどうかはさておき、僕は完全に担任の事を忘れていた。
朝と帰りに見かけたはずなのに、完全にすっぱりと記憶から抜け落ちている。
男だからだろうか、いや、男だからだ。
席を並べて半年過ぎになるだろうクラスメイトですら、未だに半分しか記憶に無いくらいなのだから。
「それにしても、本当によかったよ、削雛君がまた作品を作る気になってくれて。今回はなんだい? よかったら見せて貰えるかな?」
馴れ馴れ馴れしい。今日日の男性教師はこんなに女生徒に対して人ずれしたものなのだろうか。
悠々と間合いに入り込んできて、無粋にも削雛さんに手を伸ばす。
が、
「見ないで、ください」
見事に絵を隠されてしまう。
あからさまな拒絶の対応と視線に、白津先生は手を止め、肩をすくめた。
「あぁいや無理にとはいわないから。いやわるかったね。じゃぁ完成したらいいかな? 予定はいつごろになりそうだい?」
「授業には出ますから、明日の夕方頃になると思います。見せるかどうかは別ですけど」
「わかった。次のコンテストも近いし、テーマもフリーな物だから、もしよかったらその作品でのエントリーだけでも考えてみてくれないかな? それじゃこれ以上は邪魔になりそうだから、僕は退散するよ」
邪魔者という意味では大いに同意。
僕の男性接触限界数は良いところで一人だ。
二人ともなれば、一人には早々に気絶していてほしい。
この場合、身空木が白津先生かで悩みどころだった。
しかしよかったよかった、これ(石膏彫像)を使うまでもなさそうだ。
平和が一番だと思う。
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