ドッペru原画ー ノ 参

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「有馬君、次も期待しているから、次こそ受賞作品を頼むよ」 「ええ、誠心誠意がんばらせていただきます」  両者がにっこりと微笑む。  そのまま紙袋を足下に置いて、後を濁さないよう静かに、白津先生は教室を後にしていった。  僅かな静けさ、廊下を渡る足音が聞こえなくなってから、 「……有馬君、ね。あんた、本当にこの学科の生徒だったの?」 「あら、元委員長なのにクラスメイトの名前も知らないなんて、悲しいです」 「有馬って名字の不登校児なら知ってたわ。まさか普通科に通ってるとは思わなかったけどね。あと、気持ち悪いわよ、その猫被り」  ならばと、瞬きの間にその皮を脱ぎ捨てる。 「本物の彼女は、もうこの世にはいないがね」 「……まじ?」 「嘘だよ」  あ、そこでイラッときてはいけませんよ、削雛さん。  本当にきりがないですから。 「随分と簡単に入ってきていたが、あの白津とはどういった関係だ?」 「関係って、言われても、ただの教師と生徒の関係よ」 「ただの生徒に、教師はここまで気を遣わないと思うがね」  削雛さんの足下に目をやると、置かれた紙袋の膨らみ具合から、相当数の画材が詰め込まれているように見えた。 「……色々と面倒はみてもらってるわ。サポートみたいな事もしてくれる。でも、それだけよ」 「そうか。シュウ、ちょっとこっちに来てくれ」 「なんだよ?」  呼ばれたので立ち上がって素直に身空木へと近寄れば、制服の胸元を引き寄せられて、頭を下げられた。耳元に寄せられた口から、 「今の男を追いかけて、少しばかり話を聞いてこい」  そんな事を小声で命じられた。 「なんでだよ?」 「わかるだろ? 私は動けない、あの男から削雛との関係について聞いてくるんだ」 「えぇ」  正直嫌だった。  何を好きこのんで自分から男に話をしにいかねばならないのか。 「話は多面的に」 「……事は多元的に」 「わかってるじゃないか、なら行ってこい、恐らく職員室に向かっているだろう。くれぐれも事を荒立てないように頼むよ」  どうせ拒否権は無いのだ。  僕達の活動における上下関係は、悲しいほどに決定されている。 「すみません、ちょっと喉が渇いたそうなので、何か買ってきます」  そう告げて、僕は第二特別美術室を出た。    §   §   §
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