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ここ数年の高度生態成長期の期待に応え、身長こそは高校生男子らしい成長を見せたものの、見て見ぬふりをして、隠していただけの遺伝までもが、やはり順調な成長を遂げていたのだ。
どうやら僕の男性ホルモンは母の遺伝子に食い殺されているようだった。
「諦めも肝心、か」
今更、前髪を引っ張った所ですぐ伸びるわけでもない。
ある程度、前髪を整え、母親譲りの顔を軽く両手で摺り、頬の熱を冷えた両手で払ってから、冬の空気を吸い込み胸へと溜め込んだ。
僅かだが高鳴る胸へ冷気を押し込み平温まで下げてから、これから対面するだろう人物からどんな言葉を貰っても平然としていられるように心構えをする。
冷気の鋭さも和らいだ所で、いざとドアノブを回し、僕は中へはいった。
「おはよう、みうつ――」
思わず、言葉を止めた。
止めていた。
思いがけない事があれば、人は少なからず驚いて行動を一度は止めるものらしく、予期無く訪れた停止信号に言葉が喉元で衝突事故を起こしていた。
十二畳ほどの広さがある物置部屋は、怪談部が部室として使用するため、中にあった古びた道具やパイプ椅子にガラクタ一式を撤去し、部活動に適した部屋へと改築を施してある。だけどそれはもう随分前の事だ。
北壁に並んだ二メートル以上はあるだろう天井を支えんばかりの本棚や、
南壁に構えられた手狭なキッチンに食器棚や
それらに挟まれるよう設置された長机やパイプ椅子や、
弱小クラブである怪談部へエアコン代わりだと配給された電気ストーブに、僕は改めて驚いたりはしない。
部室奧の西向きの窓前、この空間において明らかに不似合いな高級な書斎机と、
どう見ても学生が座るには不釣り合いであろう革張りのハイバックチェアや、
昨日片付けたばかりなのに床や机へと所構わず置き散らかされたオカルトグッズや丸めた地図の束、
謎の儀式に用いられる小道具の数々にも、ここに通い始めて一年半を過ぎる僕にとっては既に日常的な風景でしかない。
部室の最奧にある開き戸が一人専用ではあるのだけど小さなシャワールームだった事には、さすがにここが元物置部屋である事を疑いはするけども、
それも代々ここを引き継いできた歴代部長達の奇々怪々な武勇伝を聞いていれば、これも驚くまでには値しなくなっていた。
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