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§ § §
新校舎一階の美術室から廊下端の階段を上った先、二階の渡り廊下に白津先生はいた。
身空木が言った通り、この先にある職員室へと向かう道中なのだろう。
まだまばらながら生徒達の足音や声が聞こえる廊下の途中で、その背中を呼び止めた。
「おや、どうしたんだい?」
振り返る姿に優しげな笑顔。
さて、コレとできるだけ事を荒立てないように質問するにはどうするか。
僕としては男と話なんてしたくないが、身空木の命令とあっては仕方ない。
「あ、あの、白津先生、お尋ねしたい事があります」
目線を合わせないように斜め下を向きながら、勇気を振り絞るためにスカートの裾なんかを握り締めて、そして聞くのだ。
「削雛さんの事、先生はどう思ってるんですか」
限界はすぐに来る。
「削雛さんと……どんな関係なんですか」
できるだけ手短に、手早く、単刀直入に、聞いてしまわなければならない。
「……え? どう思ってるか、かい?」
なんで白津先生の方が困ったような、恥ずかしそうな顔してるんだろう。
「その、どうしてそんな事が気になるんだい?」
そんなの僕が聞きたいくらいなんです。
「ど、どうしても、です」
「そうか……はは、まいったな」
まいってるのは僕もです。
あれ、どうしてちょっと顔が赤いんですか?
「その、削雛君とは何でもないんだ、教師と生徒の関係だと僕は思っているから、その、だから安心してもらって大丈夫だよ」
なにを当たり前の事を言ってるんだろうか、この人。
「彼女の素生は色々と特別でね。今は気を遣って上げないといけない時期なんだよ」
「それは、鈴村さんとの一件のことで、ですよね?」
訪ねれば、あからさまに驚いた、と白津先生は目を開いてから、表情を曇らせた。
「それは、誰から聞いたんだい?」
「鈴村さん本人から、昼休みに」
「そうか、まだ彼女はそんな事をしているのか……本当に困った子だ」
「その、よければその辺りの事情も聞かせてもらってもいいですか?」
「それは、教師という立場では話す事ができないんだ」
「だったら一人の男として話を聞かせてください」
なぜか、再びあからさまに驚かれた。
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