55人が本棚に入れています
本棚に追加
「……君は、彼女を助けたいと思っているのかい?」
「ええ、僕は彼女の現状を解決するために、ここに来ました」
そして、男という嫌いな生物と話をしています。
と、までは口が裂けても言わない方がいいのだろう。
「そうか……よしわかった、少し場所を代えよう、ついてきてくれないか」
どうやら僕は、事を上手く運ぶことができたようだ。
踵を返して、職員室とは逆の方向へ歩き出した背中を追いかけ、しばらく歩いた先は、生徒指導室の看板を掲げる一室だった。
白津先生が鍵を取り出し鍵を開けて扉を開き、中へ入るように促されたので、先に中へ。
ここも、やはり僕等の部室より広い。
冷暖房完備、長机とパイプ椅子、左右の壁両面になにやらファイルや資料らしきものを押し込んだ棚に、電気ポットと急須一式、小さな冷蔵庫まである。
整った設備。ゆっくりするには丁度良いのだろうけど、こんな個室で見知らぬ男と二人きりというのは、精神衛生上あまりよろしくない。
そんな事を考えていたら、
――ガチャリ。
振り返ると、背後で白津先生が扉を閉めて、後ろ手に鍵を掛けたようだった。
なるほど、よほど誰かに聞かれては困る内容なのだろう。
「このままじゃ寒いよね、今暖房をつけるから、あぁそれとほうじ茶でいいかな?」
「いえ、お構いなく」
「まぁそういわず、暖房つけると喉が渇くからね、とにかく掛けて待ってて」
「いえ、お気遣いなく」
暖房で部屋が暖まるまでここに居る気はさらさらない。
気の置けない男と同じ個室で二人きり。
この状況が、どれだけ僕の精神を蝕むか、わかっていないのだ。
とにかくすべきことをして、できるだけ早く退散したい。
「まぁまぁ、すぐに煎れるから」
……ダメだ、この人。
仕方なく、言われた通りにパイス椅子へ腰掛けた。
そういえば、生徒指導室なるものに初めて入ったけど、そもそもどんな生徒がこんな所につれてこられるのだろうか。
こんな設備の整った個室にまで連れ込まれて行われる、指導とはいかに。
少しして白津先生が湯気をふらつかせながら、二つの湯飲みを目の前に置いて、僕の対面に座った。
……なんだろう、微妙に顔が近い。
最初のコメントを投稿しよう!