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「初めてなのはコンテストへの参加なのではないんですか?」
「あ、あぁいや、しまったな、これは内緒にして欲しいんだけど、彼女は今まで“一度も”作品と言っていい物は描いたことがないんだよ」
「一度もないんですか?」
「僕が見てきた限りではね。スケッチやデッサンの練習をしている所はなんどか見たことがある程度、かな。作品の提出がなくても、授業にさえ出ていればこの学科は卒業できるからね。作品を作ることは強要しない。自然に、思うがままに、自らの創作意欲を尊重しているんだよ」
「そうですか……」
自信が付くまで練習だけをしていたというのは、どうやらそういう事らしかった。
「だからこそ、なんだろうね。初めての作品がこんな事になってしまって。もちろん彼女は僕に正当な審査と検査を頼んできた。担任としても無視するわけにもいかない問題だからね。ちゃんとした鑑定家の方々に頼んで、最後には大掛かりな機材まで投入して、二人の絵を調べ尽くした……結果はどちらにせよ、残念な事にかわりなかったけど、ね」
白津先生の声がくぐもる。視線は深く落とし、眉を潜めた。
「でも、それより問題は、その後の鈴村君達の行動の方だったんだよ」
歯痒そうに唇を絞り、強い目線を上げて、白津先生は言った。
「君は、オリジナルというものの定義は、どこにあると思う?」
そんな事を、言ったのだ。
「オリジナルの定義、ですか?」
それは……削雛さんにならともかく、僕に対してはとても難しい質問だ。
「僕には、まだわかりません」
「定義することはとても難しい事だと思う。でも一般的には、誰よりも先に生まれた個性へ、オリジナルという言葉は与えられるんだ」
「誰よりも先に、ですか?」
「そうだよ。乱暴な言い方をすれば、先に発表さえしてしまえばオリジナルと呼ばれるのさ。だけどね、僕はそんな定義なんて、正直くだらないと思っているんだよ」
白津先生は続ける。まるで僕へ訴えかけるように。
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