ドッペru原画ー ノ 肆

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「本当に舌が何枚もあるとは思わなかった……」  口内で蠢く何枚もの舌の感触が、舌をなぞる舌の感触が、唾液を絡ませる舌の感触が……やばい、思い出したら吐きそうだ。 「何の話だ! てかなんで私がいきなり殴られなきゃならんのだ! 本気で泣くぞ! マジ泣きだぞ! 社会的に抹殺されたいのか!」 「殴られる覚えが無いと本気で思ってるのか? よく思い出せ、身に覚えがあるだろ」 「ある!」 「あるのかよ」  悲しいほどに即答だった。 「だからといって、こんな所でいきなり殴られる程の謂われなんぞ無いわ!」 「こ、この……いきなり僕にキスしといて、謂われ無いわけあるか」 「たかがキスくらいで! 生娘かお前は!」 「僕は男だよ」 「キスだとぉ!?」  驚くテンポが一つ遅いよ、身空木さん。 「ちょ、ちょっとまて! 私は何もしてないぞ! 本当だ、き、き、キスなんてするわけないだろ! そりゃこんな所で寝てるからには、悪戯をすべきなのではと責任感を少なからず感じてはいたが」 「いや、そんな責任感は感じなくていい。むしろ違う事に責任感を感じろ、僕にキスしたのはその前だ、何が悲しくてこんな所で男のお前と、お前と、うっ」  泣けてきた。本当に気絶するほどに。  精神を穢された。  肉体を犯された。  涙を流して打ち拉がれたい。 「まてまてまてっ、私は君に呼び出されて、先にここへ行っててくれと頼まれて来たんだぞ。それじゃ話が噛み合っ……て」  “ 話が噛み合っていない ” 「……確認しよう」 「……わかった」  互いを互いに見つめ合って、僅かに距離を置きながら、 「僕は、さっき白津から話を聞いて戻る最中に、お前に襲われた」 「私は、さっき美術室に戻ってきた君に呼び出されて、ここに来たばかりだ」  アイコンタクト、そして意思疎通。 「……嘘だろ?」  奇しくも、僕は嘘吐きが言ったことと、同じ気持ちだった。   §   §   §
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