ドッペru原画ー ノ 肆

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   §   §   § 『あー、あー、マイクテスト、マイクテスト、こちら作戦本部、司令官の身空木楓だ。各自応答しろ』  支給された腰巻きのウェストバック、そこに差し込んだトランシーバーは高級品だ。  耳に引っかけた小型インカムから聞こえる身空木の声は、いつも通り凛としていて、静寂の占領下であろう教室を容易く侵略する。   「こっちは聞こえてる、感度も問題ない」  校舎から躍然たる若者達の活気は消え去り、鋭利な寒さと静寂が張り巡らされる、 「こっちも大丈夫よ。……でも、この距離じゃテストにならないんじゃないの?」  現在、午後九時丁度。 「よし、それではこれより作戦を説明する。全員、楽にしてくれたまへ」  一般生徒立入禁止時刻を完全に過ぎた校舎内、厳密には第二特別美術室に僕達はいた。  しかしここで、教師に見つかって咎められるのは僕、ただ一人である。  宿直の教師に見つかれば島送りは避けられないであろうリスキー状態へと僕を追いやった身空木は、なぜか苛立っていた。  だが、その表情はヤル気に満ちている。  身空木が、苛立ちながらも突然にヤル気を出したのは、昨日の夕方の事だった。   §   §   §  僕が身空木のような形をした、何者かによる悪意の精神汚染(ベーゼ)を受けた、すぐ後の事だ。  自分の形をした何かとの遭遇話は、身空木の俄然と闘志を燃えたぎらせた。  そして、まさに烈火の如く、罵倒したのだ。  ……僕を。 『どうして私の偽物と気がつかなかった、どうして私じゃないと気付いてくれなかった、てかどうしてキスを許したんだ! キスだぞ!? わかるだろ! 私のキャラじゃないってわかるだろ! 私が君にそんな正面切ってロマンスの欠片も節操も無いようなキスをすると思ったのか! 私は意外とそっちの方はロマンチストなんだぞ! なんでこうも毎度毎度毎度と、あぁぁもう怒った! 怒ったもんね! 本当に今回ばかりは私は怒ったぞ!』  などと、後半に至ってはよく分からない支離滅裂な暴走言動を繰り返した挙げ句、僕を殴って(殴った事の詫びとして大人しく殴られ)蹴って(蹴り返して)涙を流して(嘘泣きだろう)、溜息混じりに最後にはこう言ったのだ。 『……状況が変わった、これよりドッペルゲンガーを捕獲し、すぐにでも息の根を止めてやる』
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