ドッペru原画ー ノ 肆

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 物騒極まりないが、エンジンのかかった身空木を止められる人間は、恐らくこの世に一人くらいしかいない。  その一人も今はどこで何をしているか素生すら掴めない僕は、走り出した身空木の後を、いつものように追いかけるしかないのだ。  だが、意外なことに最初に向かったのは、第二特別美術室だった。  中に入るやいなや、作品の完成を急ぐように削雛さんを焚きつけて、徹夜での作業を約束させ、僕には明日に向けての準備をさせようと、必要な道具一式を適当な用紙に書き連ねた。  これは雑務担当である、僕の仕事だ。  明日の朝までの監視と、ボディーガード役を身空木と交代してもらい、制限時間も近い一般生徒な僕は、その足で一度我が家へと帰った。  明朝、妹が食べる一日分の食事を冷蔵庫に押し込み、朝は午前六時丁度に普通科校舎へ。  怪談部の部室から指示された通りの道具を集め、再び芸術科の校舎、第二特別美術室へ。    道中で制服こそ着替えることができたものの、顔ばかりは身空木のメイクがなければ騙し通せないのではと危惧する僕が、誰にも呼び止められることなく美術室に到着したのは、まだ朝の七時過ぎだった。  中では、まるで時間を止めたように、身空木と削雛さんが昨日の格好のままで、黙々と作業をしていた。  このまま授業を受けずに作業をするのかを訪ね、授業前には教室に戻ると言付かり、僕はそのままノーメイクで朝の教室に向かった。  教室に入ると、僕の机がめちゃくちゃにされていた。  なんか粘つく液体がかかっている。  ぐしゃぐしゃに千切られた教科書類。  人の指を模して作ったのだろうゴム製のオモチャ。  机の中には恐らく生ゴミらしき腐臭。  そして机の上、板上は彫刻刀でだろうか、随分と荒っぽい字で『愛してる』との告白文。   随分と過激な恋文だ。  しかしこの程度の混濁と汚れで雑務担当である僕の気が引けると思ったのなら、まだまだぬるい。ぬるぬるだ。この机のように。  教室の掃除道具を押し込んであるロッカーから一式を取り出して、片っ端からゴミ袋に押し込んで、雑巾で拭き、昨日から溜め込んでしまった清掃欲を吐き出すように、徹底的に清掃した。  丁度終えたぐらいに、鈴村さんが教室へとやってきた。
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