ドッペru原画ー ノ 肆

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 丁度ケーキが届いた時、心地の良い静寂を破るように、身空木が走り込んできたのだ。  肩で息を切らしながら、吸い込んだ酸素で再び燃焼。  再び僕を罵って、クライアントに手を出すな、節操を守れ、というか自分が働いているのに何いちゃいちゃしてんだお前等とグチグチ溢しながら、僕等が注文しておいたコーヒーとケーキを勝手に全部飲み食いし、電光石火で走り出していった。  なんてことだ……おもいっきり食い逃げじゃないか。  突如として足下から竜巻が現れた時の気分って、きっとこんな感じなんだろうなぁと考えながら、保険はおりなくても後でケーキとコーヒー代は上乗せ請求しようと心に決めた。  というか、何しに来たんだ、てかなんでここだと分かったんだ。  だがしかし、邪魔者は去った。  被害は最小、この程度で済めば現在の幸福値で充分過ぎる程に補えるだろうと削雛さんを見れば……。  削雛さんは熟睡していた。  背もたれと壁の角に頭を預けて、浅い寝息をたてていた。  思えば、削雛さんは徹夜明けなのだ。  勿論無理に起こすなんて事はしない。そのまま、僕は追加のコーヒーを一つ、毛布を一つ頼んで、待ち合わせの時間まで、静かに目を瞑って、がらにもなく情報を整理した。  盗作問題の謎。  ドッペルゲンガーの噂。  現れた、僕等に似せたナニか。  削雛さんの現状とクラスの問題。  突き落とされた鈴村さんと、刺された削雛さん。  身空木が一体それらをどうやって解決するのかとか、結局昨日現れたアレは一体何者だったんだろうとか、うつらうつらと考えていれば、僕もいつのまにか白河夜船を漕いで、その上から黒い魚の夢を見た。    掬いようの無い夢からうっすらと目を開けると、また身空木の顔が、ぼんやりと見えた。  しっかりと目をこすって覚ますと、湯気が揺れるコーヒーを傾けながら、やはり削雛さんの隣に身空木が座っていた。  そして、またいつもの微笑みで言うのだ。 『さぁ時間だ。準備は整ったよ。ドッペルゲンガーを捕まえようじゃないか、シュウ』   §   §   §
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