ドッペru原画ー ノ 肆

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 §   §   §  閑話休題。  身空木の手練手管でスルリと校舎へと忍び込み、第二特別美術室にて準備を行い、僕達はドッペルゲンガー捜索を開始した。 「夜の学校って、本当に別世界よね……不気味だわ」  冷たい暗闇が伸びる、冬の校舎。  広く、長い廊下には明かりと呼べる物が少ない。  今夜は自己主張が控えめな月、消火栓から溢れる赤、非常口を指す誘導灯の明かりと、頼りなく弱々しい光が暗闇へと抵抗を示している。  足音は夜寒の空気を伝って幽暗へと吸い込まれ、どこかで反響でもしているのか、時折聞こえてくるタイミングのずれた足音が、この不気味さに拍車をかけているように思えた。 『餌役はつべこべ言わず進みたまへ、あぁ次の突き当たりを左だ』  小型インカムの受信限界距離は第二特別美術室から、旧校舎までの距離も楽々と超えるらしく、身空木の声は雑音もなく澄んでいる。  芸術科旧校舎の構造は普通科に比べれば、まだ素直な方だ。とはいえ、来たばかりの僕が先導できるわけもなく、削雛さんも詳しくないと来れば、嘘吐きナビゲーダー身空木楓の出番となる。  この上なく、不安。  そんな司令官である身空木は現在、美術室にて校舎の平面図を見ながら、僕達に道の指示している。直接同行しないのには何らかの思惑があるらしく、身空木に対しその深意を訪ねるのは、恐らく時間の無駄だろう。  身空木が一方的に提案してきたのは、とにかく私の指示通りに歩け、だった。  言われるがまま、案内されるがまま、僕達は新校舎から歩き出して、既に一時間は経過している。自分達のクラスがある四階西端前も通り、新校舎をあらかた歩き渡った後、そのまま旧校舎へ向かうように指示が飛ぶ。  比較的新しいとはいえ、老朽化が否めない旧校舎は、どこからか隙間風でも吹き込んでいるのだろう、足を踏み入れた瞬間、グッと寒く感じた。  僕は腰の送受信機のスイッチを押し込み、 「餌役って言い方はないだろ」  と、身空木の態度に文句をつける。 『竿役もつべこべ言うな。というか、最近その女の肩を持ちすぎじゃないか? ねぇ? 私がなにかしたか?』 「お前の肩なんて触りたくもない」  というか竿役って、それもかなり酷い例え方だ。
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