ドッペru原画ー ノ 肆

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『……君とはいつか、出すとこ出して話をしなければならないようだな』  ワナワナと、ふるふると声を震わせながら、身空木は怒りの火力発電機に燃料を注いでいるようだった。 「突き当たりについた。左は階段だけど、登ればいいのか?」  こんな時間の旧校舎にまで宿直の教師が見回りにくるかどうかは怪しい所だが、できるだけ小声で応答した。 『いいぞ、そのまま登れ、踊り場で足を止めず、ゆっくりとだ』  言われた通りに、階段を一定のペースで登る。  踊り場、また合わせ鏡。  否応なく昨日の記憶が蘇る。 「なぁ、なんでこの学科には、こんなに合わせ鏡があるんだ?」  探索を初めて、これで六対の合わせ鏡の前を通っている。  それも、すべて階段の踊り場で。比べる対象を普通科の校舎しか知らない僕だけど、それでもこれだけの数を設置する理由が、学科長の趣味か自己愛性の強い生徒からの要望か、それぐらいしか僕には思いつかない。 『階段の踊り場には身だしなみを整えさせるために鏡を置くことが多いが、他にも意味はある。階段というのは危険が多い場所でもあるのだよ。登る、下るという行為は普段なにげなくやっている事だが、往々にしてその足場は酷く狭い。ひとたびアクシデントに見舞われれば、踏み外して転落という事は少なくない。特に多いのは人間同士の接触事故だ。踊り場の鏡は、それを少しでも防ぐための道路反射鏡の役目もしているのだよ』  なるほど、と、ここで感心していては身空木の思うつぼである。 「それ、今、思いついただろ」 『勿論だ』  思わず嘆息したのは、すこし後ろから階段を登る削雛さんだった。  もし接触事故を防ぐためだけなら、何も合わせ鏡にする必要は無いはずだ。 『だが、的外れというわけでもないと思うがね。階段が危ないというのも事実だ。そういえば、君達はどうして階段にまつわる怪談話が多いのかを知っているかい?』 「さぁ、階段と怪談での掛詞になってるから連想しやすいとか?」 『君は呆れるほどに単純だな』  うるさい、ほっといてくれ。 『……階段では、事故が起こりやすいから、でしょ』  トライシーバーで答えたのは、削雛さんだった。
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