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東京の外れ、
茨城県に程近い山奥。
木々は鬱蒼と生い茂り、日の光を閉ざしている。余り人が来ていないだろうと分かる石畳は苔だらけになっていた。
そんな山奥に一人の青年が歩いていた。黒のTシャツにジーパンと言う山登りには適しないであろう格好をしている。
青年はそんな格好であるのにも関わらず、身軽に道を歩いていく。明らかに道でないところも慣れたように突き進んでいき、その動きには躊躇いがない。
暫く歩いた青年は立ち止まると、ボサボサにした黒髪を掻き上げ汗を拭った。
疲れたのか、近くの石に腰掛けた青年はぼそりと呟いた。
「迷った」
迷っていたのに躊躇なく進んでいくその姿勢は評価に値するだろう。だが、迷った場合に歩き回るのは得策ではない。
そんなことも露知らず青年は立ち上がり、斜面を登っていく。
「頂上はまだかぁ?結構歩いたと思うんだけど」
頂上につけば麓までの道がわかって、迷うこともないと考えた青年はこうして歩いていたのだった。
実は最初は迷っていたのではなく、きちんと道のりに進んでいたのだが青年がぼーっとしながら進んでいるといつの間にか道を外れており、こういう状況になったのであった。
青年はこんなことになるなら来なきゃ良かったと一人呟く。
こんな状況を作った好好爺が青年の脳裏に浮かんで消えていく。
「爺………あとでシめる」
敬老精神はどこいったと言われるような言動だが、青年は気がつく様子もない。
草木を掻き分けて斜面を登っていく、頂上はすでに近い。延々と続くかのように感じる木々の群れは数メートル先で途切れていた。
日の光が一際輝いているように見え、青年は眼を細める。暗い山道を歩いていただけに明るいところは気分がよくなり、思わず駆け出してしまっていた。
青年ーー木藤麟太郎はこの先何があるのかも知らずに森を抜けた。
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