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目の前には親父が居た。
静かに佇んでいても威圧感が在る。それが親父だ。
何の言葉も発しない。息子である俺の言葉を静かに待っている。
が、俺も何も話さない。
ただ黙って床を見つめていた。
喉奥に蓄積する言葉は、口を開けても吐き出せず。小さな息のみ漏れては、重い空気に耐えられず、零れ落ちていった。
首を締めつけられているような息苦しさが邪魔をする。
…暫しの沈黙の後、親父が口を開いた。
「……何の用?」
覇気が全く感じられない声だった。いつもと同じ調子の声だ。
それに少し緊張が解けて。
俺は俯いていた顔を上げた。
「…この家を出る」
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