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父、尾上格【オノウエ イタル】は優しく穏やかな人だった。
ただ、真面目過ぎた性格である意味頑固だった半面、意外と精神的にもろい部分もあった。
彼は十四年前、入院していた病院で亡くなった。
原因は、肺炎。
医者や看護士の隙を狙い、病院から飛び出した格は自分の両親が眠るお墓に向かったらしい。
病院が警察に捜索願を出したところ、五時間後にお墓の前で雨にびしょ濡れになって倒れていた格を発見。
すぐさま病院へ運んだものの、体が弱っていたために肺炎にかかってしまい三日後に息を引き取ったのである。
後から聞いた話では、死に間際に格は涙を流しながら息子の名前を言い続け、最後は『ごめんな。』という謝罪の言葉を呟き、眠るように息を引き取ったという。
瑠威は諸事情により、格の葬儀には参列できなかった。
思えば、色々なことで格には迷惑をかけてしまったと今でも反省している。
同時に、あの父親だからこそ今の瑠威が存在しているのだろうと、ようやく感謝が出来るようになっていた。
帰国後は、必ず月に一回は格が眠るお墓へ足を運び、お参りに行っている。
母、桂木留美子【カツラギ ルミコ】はキャリアウーマンで日本と海外を往復した生活を送っていたが、十年前に日本人の男性実業家である小山葵【コヤマ マモル】と再婚したのを機に仕事を辞めた。
瑠威が大学を卒業するのと同じタイミングで葵が日本へ戻る際、留美子と瑠威の二人も一緒に日本へ帰国。
日本に戻ってから、瑠威は出版会社へ就職して一人暮らしを。
留美子は日本に帰国したのを機に葵と入籍。
入籍後は葵の会社で秘書となり、公私ともパートナーとなって支えている。
元々は仕事人間でプライドがエベレスト並みに高かったが、十六年前のある出来事がきっかけで性格が丸くなり、一人で暮らしている息子の安否をメールや電話をしては気遣うようになった。
葵とは一カ月に数回は会っているが、顔を合わすと必ず『自分の会社で働かないか?』と笑いながらヘッドハンディングをされ、その度に丁重に断るというコントじみたことを繰り返していた。
留美子と格が出会ったのは大学のキャンパスでのゼミだった。
たまたま隣に座ったのが縁で知り合ったらしい。
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