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(誠一さん・・・。)
「海外ツアーを前に、俺はその人にこっ酷く振られた。いつもだったらキスをして『好きだよ。』と言えば、機嫌を直して笑顔で俺を受け止めてくれていたのに・・・。あの人は拒絶した。寂しい笑顔を浮かべながら去って行くのを見て、俺は初めて気付いたんだ。この人が俺にとって本当に大切な存在であることを。心の底から愛していることを。本当に後悔をして、苦しんだ。苦しみながらも俺は前に進まなければいけなかった。それが現在の俺だと思う。」
聞きたくないと思い、会場から出ようと出入り口のドアの取っ手に手を置いた時、それを阻止する手が横から出てきた。
真由子である。
真剣な表情で真由子は瑠威に『逃げないで!』と引き止めた。
理由は、誠一の言葉をちゃんと聞いて欲しいと思ったからだ。
黙り込んでいる瑠威の背後から、誠一の言葉が聞こえてくる。
「いつか、どこかで再会することを願っていた。再会できたら、今度こそ大切にしたいと思って、誰とも付き合わず結婚もせず独り身を貫き通した。その甲斐があったのかな?先日、俺の願いが届いたんだ。」
「!」
「嬉しかった、マジで泣きそうになるぐらい嬉しくてたまらなかった。でも、あの人は俺を拒絶した。仕方ないよな、散々泣かしたんだから。それでも再会できたこと、すっごく嬉しくて今すぐ死んでもいいと思ってしまった。」
「・・・・。」
「そしてやっと、この曲を・・・・。『涙【ルイ】』をその人に聞いてもらえたんだ。ずっと伝えたくて、聞いて欲しくって。その思いが通じたんだと思ったんだ。」
中央に設置されているテレビジョンに映し出されていた誠一の目からは涙が流れ落ちていた。
それを見て感化されたのか、観客席から啜り泣きが聞こえてくる。
(周りに惑わされてはいけない!俺は、昔の俺じゃない!)
肩を震わせ、瑠威は耐えていた。
彼の涙が真実だとしても、受け入れるわけにはいかないと瑠威なりに思っているのだ。
「瑠威君、もう・・・誠一を許してあげて?」
「真由子さん・・・。」
ポタッと瑠威の手の甲に滴が落ちる。
真由子の涙だ。
彼女の目からは大粒の涙が頬を伝い、瑠威の手の甲へと落ちていく。
十六年という長い年月の間、自分も誠一も全てが激しく変動しているのを瑠威自身が痛いほど分かっている。
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