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それでも許せない部分があるのだ。
誠一に対しても、自分に対しても。
あの時、瑠威は誠一から逃げた。
逃げなければ、誰もいない彼の部屋に一人で待つことに耐えられなかったから。
誠一に依存していた自分が許せなくて、情けなくて、それでも必死に彼を求め続けていた自分が今でも許せないのだ。
拒絶をすることは、過去の自分と違うという証明だと瑠威は思っている。
あの頃とは違って、瑠威は誠一がいなくても前に進めることができた。
誠一以外の人間に抱かれても、平気だった。
和敏と関係を持っても、誠一に対して後ろめたいという感情は一切起きなかったし、後悔すらもなかった。
それでも彼を拒絶しているのは、誠一が『過去の瑠威』を求めていると気付いたからだ。
泣いている真由子には申し訳ないと思いながらも、自分の腕を掴んでいる彼女の手を振り払い、瑠威は告げた。
「真由子さんも誠一さんも『現在』の俺を見ていないんですね?」
「瑠威君・・・。」
「俺は十六年の間、成長したつもりです。それでもあなたたちは『過去』の俺を求めている。それを許せると思っていますか?俺はあの頃とは違って、一人で前に進めます。あの人がいなくても恋愛が出来ます。」
「・・・・・。」
「真由子さんには申し訳ないですが、あなたたちが『過去の俺』を見続けている限り、俺は誠一さんの思いを受け止める気はありません。かえって迷惑です。だから、俺のことは忘れてください。」
「瑠威君・・・。」
「誠一さんに依存して、彼だけが自分の世界の中心だと思っていた少年はもう、いないんです。十六年前に死んだんですよ。」
フッと笑い、ドアを開けて外に出る。
バタンッと音を立てて扉が閉まると、瑠威はフウッと一息を突きながら会場から出て行った。
会場から駅に向かう道をゆっくりとした歩調で歩きながら、瑠威は夜空を眺めた。
夜空は雲一つなく、星々が転々と淡い光で輝いている。
風が吹くと、ブルッと体が冷える。
季節はあと一週間で十二月に入る。
来月末には仕事を辞めて、渡米しているだろう。
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