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今の瑠威に、日本は居心地が悪すぎた。
アメリカに行けば、新しい環境の中で過去の記憶はどんどんと消えていくのだろう。
それでいいのだと、自分に言い聞かせる。
誰も自分を知らない土地で静かに暮らしていれば、自然に自分だけを愛してくれる人が見つかる。
その人と死ぬその日まで一緒に過ごし、穏やかに暮らしたい。
執着もしなければ、依存もしない。
一人で立ち、前に進みたいからこそ、瑠威は過去を切り離したい。
気持ちが少しだけ楽なのは、自分の思っていたことを吐き出したからだろうか?
これで十分なのだ。
不意に涙が頬を伝って落ちていく。
悲しいから泣いているのではない、苦しいから泣いているのではない。
何かに解放された感覚が彼に涙を流させているのだ。
誠一の成長した姿を見られただけでも、十分だと瑠威は思った。
それで十分だと思ったその時だった。
「瑠威!」
懐かしい声と共にガシッと腕が掴まれる。
突然のことで瑠威は驚きながら、上半身だけを後ろに向けると、そこには息を切らした誠一の姿があった。
さっきまで舞台の上で歌っていたアーティストが目の前にいることに、瑠威は驚きを隠せずに驚愕したまま、止まっていた。
ハアハアと息を切らしながら、誠一が笑みを浮かべている。
(夢?それとも幻影?)
頭が真っ白になったと同時にパニックを起こしていた。
絶句している瑠威を見て、少しだけ息が落ち着いてきたのか、誠一が口を開いた。
「良かった!間に合って・・・。」
「何で?あなたはまだライブ中なのでは・・・?」
「みんなに任せて、抜け出してきた。」
フッと笑った瞬間、瑠威の身体は暖かいものに抱き締められていた。
固まっている瑠威を自分の方に抱き寄せ、誠一が力強く抱き締めたのである。
さっきまで舞台の上で暴れていたせいか、彼の身体からは汗の匂いがし、直に触れている部分は汗でベタッとしていた。
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