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だが、不思議なことに嫌悪感がないのだ。
困惑している瑠威を抱き締めながら、誠一は言葉を続けた。
「良かった、また瑠威を見失ったらどうしようかと思ったんだ。会場を飛び出した甲斐があったよ。」
「・・・ふざけんな!」
瑠威は渾身の力で誠一を自分から突き飛ばした。
突き飛ばされた誠一は少しバランスを崩しそうになったが、何とか尻餅をつかずに済んだ。
瑠威は動揺しながらも誠一に向けて怒鳴った。
「あんたはプロだろ!プロが身勝手な理由で仕事を放棄するなんて最低な行為だろ!そんな生半可な気持ちでプロになったのなら、さっさと解散して引退でもしろよ!」
「瑠威・・・・。」
「勘違いするな!俺は好き好んであんたのライブに来たわけじゃない!むしろ、来て後悔したよ!何が『涙【ルイ】』だよ!何が会いたいだ!待っているだ!約束をするだ!俺はそんな言葉で自分の気持ちを変えるつもりはない!あんたとは、過去との出来事だったんだ。それを引き摺られていい迷惑なんだよ!」
「・・・・・。」
「何で俺を苦しめるんだよ!せっかくあんたを忘れるために必死に生きていたのに!何でだよ!何で!」
涙が止まらない。
分かっていたはずだ。
瑠威自身、過去を否定しながらも過去にしがみついている自分がいることに気付いていたのに、あえて見て見ぬ振りをし続けていた。
十六歳の時に体験した恋は、今でも色褪せることはない。
過去の記憶を夢で見るぐらい、瑠威にとって誠一との二年間は辛くて悲しくて苦しい以上に、幸せな時間だったのだ。
全てのモノを拒否していた瑠威にとって、誠一は救いの存在だった。
だからこそ、彼からの酷い仕打ちを受けても『いつか、また僕を大事にしてくれる。』と信じ込み、依存したし執着もした。
自分にだけ見せてくれる笑顔を見られるように、必死になっていた。
そんな弱い自分が、今の瑠威には許せなかったのだ。
十六年間、どれだけ悩んで苦しんできたのだろう。
過去を切り捨てられるほど、人間が出来ていないのは分かっているけれど、拒絶したいと切に願っていた。
拒絶=過去の恋が忘れられない、未練たらたらの自分に嫌気がさす。
それでも必死に前に進み、一人でも生きていけるように頑張ってきた。
強くなりたいと願っていたのに、誠一を見るだけで過去の自分に戻ってしまう。
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