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「何でだよ・・・。何で・・・。」
答えが見つからない。
それでも瑠威は泣きながら目の前の男を拒絶する。
自分の足で立つためにも、断ち切りたいと願いながら。
彼の目の前で黙っていた誠一は、フッと穏やかな笑みを浮かべると瑠威に告げる。
「人を好きになることに対して、答えなんてないんだよ。」
「えっ?」
「答えを求めていたら、恋愛なんて出来ない。だからこそ、人は苦しむし悲しむし悩むんだよ。そうしながら、人は成長していくんだ。」
「・・・・。」
「十六年前、俺はお前に対して酷いことをしたと反省している。これは本音だ。今思えば、お前の優しさに甘えていたのかもしれない。その優しさに俺は応えられなくて、お前から逃げていた。その結果、俺は大事なものを失ったことに気付いて後悔した。」
「後悔・・・?」
「ああ、真由子に言われて気付いたんだ。大好きなら、どうして大事にしなかったのかと。あの頃の俺は自分のことばかりしか考えられなかったガキだから、他人の気持ちなんて全く考えなかった。瑠威を失って初めて、他人の気持ちを考えられるようになったんだよ。」
穏やかな笑みは、全ての感情を乗り越えた結果なのだろうか。
困惑している瑠威を無視して、誠一は言葉を続けた。
「俺は過去のお前を求めてはいないよ。俺が求めているのは『瑠威』という人間だ。過去も現在も未来も、俺は瑠威だけを好きでいたいし、愛し続けていきたいと思っている。迷惑だと思うかもしれないけど、それぐらい俺にとっては大事な存在なんだ。」
「俺という・・・・・人間?」
「ああ。読書が好きで向日葵のような笑顔を向けてくれた過去の瑠威も、大人になって俺に言いたいことをぶつけている今の瑠威も。そして、一人で生きていこうとしている未来の瑠威も、俺は一生愛し続けていきたいんだ。傍にいなくてもいい、俺を拒んでくれてもいい、結婚して平穏な家庭を築いてもいい。それでも、俺は遠くから瑠威の幸せを願い、愛し続けていくよ。これは今も昔も変わらない俺の気持ちだ。」
「・・・・・。」
頭の中でパリンッと何かが砕ける音が聞こえる。
誠一の気持ちを聞いて、瑠威は動揺しながらも頭を左右に振って否定を続けた。
(嘘だ!何で?何でそこまで言い切れるんだ?どうして?)
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