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逃げる瑠威に誠一は『待て!』と怒りながら、走り出した。
走ってすぐに瑠威を捕まえると、誠一は笑みを浮かべながら彼を背後から抱き締めた。
そして耳元で囁いたのである。
「瑠威、もう・・・俺から離れないでくれ。俺の傍で笑っていてほしい。」
「誠一さん・・・・。」
嬉しさの余り、泣きそうになる。
あの頃、どうして素直になれなかったのだろう。
どうして一緒に乗り越えようと考えなかったのだろう。
辛くて苦しかったあの日々が、一瞬にして消えてしまうぐらいの幸福な時間である。
それに水を差すかのように、誠一のポケットから携帯電話が鳴った。
誠一はポケットから携帯電話を取り出し、通話ボタンを押して電話に出た途端、携帯電話から真由子の怒鳴り声が聞こえたのである。
『誠一!あんた、どこにいるのよ!』
「ま、真由子?」
「あっ・・・・・。」
瑠威は気付いてしまった。
そう、誠一は今ツアー最終日の真っただ中でしかも彼は瑠威を追いかけるためにライブ会場から脱走したのである。
真由子の声の後ろから歓声が聞こえるものの、それと同時にスタッフたちが大パニック状態なのかも音で感じた。
『あんたね!今、ライブの真っ最中だっていうのを忘れているでしょ!早く帰ってきなさいよ!これ以上は蓮次たちも限界だわよ!』
「分かった、今から戻るから待っていてくれよ。」
そういって電話を切ると、誠一はハアッとため息をつく。
「ライブだってこと、すっかりと忘れていたよ。このまま、瑠威を俺の部屋に連れ込もうとしたのにさ。」
「おいおい、あんたは自分が人気アーティストだって分かっているのか?」
ツッコミを入れながらも瑠威は呆れている。
そんな彼にフッと笑みを浮かべた誠一は、チュッと瑠威にキスをして元来た道を戻り始めた。
不意打ちのキスをされて顔を真っ赤にした瑠威は動揺しながらも、トボトボと歩く誠一の後を追い駆け、彼の腕を掴むと急ぐように引っ張る。
そして急ぎ足で一緒にライブ会場へと戻ったのだ。
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