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 これには瑠威も黙ってはいられない。 「編集長、今から酒盛りのつもりですか?」 「しょうがないだろ!今日締め切りの記事が上がってこねえんだから!」 「だからって、仕事をしているスタッフの前で酒盛りをするなんて、おかしいでしょ!」 「だったら早く仕上げてくれよ!副編集長!」 「・・・・・。」 (この男は自己中なんだから・・・・。)  瑠威と言い合っているのは、M編集部の編集長であり、上司でもある久須美和敏【クズミ カズトシ】だ。  彼らが勤務している株式会社ライド書店は様々なジャンルの書籍を扱っている出版社だ。  部署は人事部、制作販売部、営業部、編集部と四つの部署に分かれている。  中でも編集部は、文芸雑誌全般を扱う文芸編集部。  女の子向けのコミックス『マーブル』を担当するマーブル編集部。  男の子向けのコミックス『レジェンド』を担当するレジェンド編集部。  そして、ファッション雑誌『BI-RAKU』などを担当するBI-RAKU編集部と、音楽情報誌『M-Friend』などを担当するM-Friend編集部とそれぞれに分かれている。  M-Friend編集部、略して『M部』はここ数年の間に多数の雑誌部数が出ており、売り上げも上昇を続けている。  瑠威は二年前にM編集部の副編集長に就任して以来、売り上げに貢献している。  三十代で副編集長としての地位を築けたのは、和敏のおかげともいうべきだろう。  元々、瑠威は文芸編集部の編集スタッフであった。  入社の際、アメリカに住んでいたために英語力が抜群だったのを人事部に買われた瑠威は、主に海外文学の編集を担当していた。  そこへたまたま資料を借りに来た和敏が瑠威の仕事振りを見て、文芸編集部の編集長に『あいつを俺の部下にしたい!』とゴネ押しをし、半年後に部署異動。  以来、和敏は瑠威をとことん教育し、自分の持っている知識やノウハウを全て彼に叩きこんだ。  結果、瑠威は二年前の人事異動でM部の副編集長として昇進し、現在に至っている。  元々、文芸は大好きな瑠威だがどうしても音楽関連を扱うM部の配属だけは頑なに拒んでいた。  
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