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和敏から『俺の部署に来い!』と誘われた時も断固として拒絶していたのだが、人事部から泣きつかれてしまい諦めた。
噂では、人事異動が通らないと和敏が独立する!と言い出したらしい。
ライド書店の文芸編集部の売上は最も悪く、部署を廃止しようかという話まで持ち上がっていたところ、出版業界の中では敏腕編集者として有名な和敏を必死で口説き落とし、十年前に中途採用で入社したことで売り上げが回復。
それどころか、各出版社が販売している音楽情報誌の中でトップの売上になったことで、人事部は彼を手放したくないし、頭が上がらないらしい。
それもあり、瑠威は渋々と辞令を受けることになったのだ。
和敏は現在、四十歳を迎えている。
彼は根っからの仕事人間だったため、二回ほど離婚している。
二度目の離婚の時に和敏は『自分は根っからの仕事人間で、結婚には不向きだ!』と自覚をした。
それを聞いた時、瑠威は心の中で『一回目で自覚しろよ。』と悪態を吐いていた。
自分でも無意識に和敏に悪態を吐いていたのが気付いていなかった瑠威に、和敏は編集長という立場を利用して、制裁という形で一週間、瑠威を自宅に帰してくれなかったことがあった。
その時に経験した結果が『和敏を怒らせてはいけない!』という教訓だった。
最も恐れられている編集長であるが、仕事以外は本当にだらしない。
今では唯一、唯我独尊的な性格である和敏に口で張り合えるのが瑠威だけになっているのだが、彼なりに和敏を怒らせてはいけないと思い、一応は控えている。
それに、俺様体質の人間の扱い方を知っている半面、そういうタイプの人間とは極力関わりたくないと思っていながらも、仕事として割り切ることを徹底的に自分へ言い聞かせていた。
「だったら仕事してくださいよ!編集長!」
「分かった、分かった!なら、出来ている記事を見せてくれよ。」
机の上にばらまいたビン酒やつまみをビニル袋に戻しながら、和敏が指示を出す。
それを受けて、瑠威は現時点で出来上がっている原稿を和敏に渡した。
瑠威から受け取り、和敏が真剣な表情で原稿を読んでいると、右のペン縦に入っている赤ペンを手に取り、所々にチェックを入れ始めた。
数分後、赤ペンだらけの原稿を瑠威に渡して和敏が口を開いた。
「誰だ?この原稿を仕上げたのは?」
「馬場さんですが?」
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