第1幕 はじまりのとき

5/15
前へ
/100ページ
次へ
忠治は静邦にそう言われて、その通りにしようと思った。 忠治だって人の親だ。 どんな形で産まれた子だろうと幸せにはなってもらいたかった。 だから、忠治は静邦の言うとおりにすることにした。 どちらを捨てるかは見てからにしよう。 「静邦、どちらを捨てればいいかを占ってもらいたい。 一緒に産屋にこい」 忠治はそう言うと静邦の部屋を出ようとした。 しかし、静邦は忠治と一緒に出ようとしなかった。 「静邦、どうしたんだ。 いくぞ」 「殿、私が行かなくても、どちらの姫君を離せばよいかは分かります。 私は今の占いで悪い結果をひっくり返そうとしました」 静邦は冷たい声で紅い櫻を見ながら言った。 「静邦、何を言い出す。 まぁ、よい結果ではないか」 「いえ、それはひっくり返した結果でございます」 「それがどうした、よい結果になったのはとてもよいことではないか」 「いえ、幸せを幸せに捉えるかはその時代の流れで違います。 この幸せがこのあとも幸せかは分かりません。 ただ今分かることは一つだけです」 静邦が言い出す言葉に忠治は癇癪をまた起こしそうになった。 この乳兄弟はなにを言い出すのだろうか。 そう思い、静邦に背を向けたときだった。 何かが倒れる音がしたのだ。 とても重いものが…。 とても近くでだ。 忠治は思わず、もう一度後ろを振り向いた。 「殿…た…忠治さま…。 私は罪を犯しました。 占いを裏の結果にするのは、命を使う罪でございます。 私はそれを償います。 忠治さ…ま…、ぉげんき…で…」 そこにあったものは… 乳兄弟である静邦が倒れている姿だった。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加