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忠治は何が起きたのか、一緒に来ていた蘭香に呼ばれるまでわからなかった。
一体、何が起きたのだろうか。
静邦は…。
何と言ったのだろうか。
いや、頭の中には静邦の言った言の葉は全て入っている。
なのに理解できないのだ。
罪を償うとはどういう意味なのだろうか…。
忠治は静邦の元へと駆けていき、すぐ近くで腰を下ろした。
気づいたときには、もう遅かったのだが…。
「静邦??静邦ぃーー!!」
忠治は自分の子が産まれたことも忘れ、泣き叫んだ。
静邦はまだ、齢二十六なのだ。
これから、自分とともに生きていくはずだったのだ。
「殿…、お父さんのことはもう……。
それより、姫君の元へ参りましょう」
忠治の姿に自分を重ねながら、蘭香は言った。
蘭香だって、まだ齢十の女童だ。
ましてや、自分の父親が目の前で倒れている。
蘭香だって、泣き叫びたかった。
しかし、蘭香は年の割に大人になりすぎていた。
それもそのはずだ。
一緒の時期に産まれてくるはずだった御子は死んだのだ。
産まれてきてすぐに…。
男の子だったらしいという不確かな記憶しかないが…。
このことによって蘭香は乳兄弟と遊ぶはずだった時期も勉学に励み、次産まれてくるだろう忠治の子のためにたくさんの知識を蓄えた。
その結果、冷静に冷酷にものごとを極められるようになったのだった。
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